この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

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「はやぶさ2」のカプセルからたくさんの岩石サンプル──「本体」は遥かな第二の旅へ

第1話【カプセルの帰還】

 すでにみなさんは「はやぶさ2」が52億キロに及ぶ旅を翔破し、さる12月5日にサンプル入りの回収カプセルを分離したニュースを聞いているでしょう。そしてカプセルは地球の厚い大気に秒速12キロという猛スピードで突入、大気との壮絶な闘い(図1)を経て、6日午前3時前にオーストラリアのウーメラ砂漠にパラシュートを開いて緩降下しました。現地の回収班は、目による観測・カプセルからのビーコン電波の追跡・マリーンレーダー、航空機・ドローンなどの手段を総動員して着地位置の推定を行い、突き止めた場所へヘリコプターで急ぎました。

 ヘリコプター班は、推定データを基にして砂と草地ばかりの荒漠とした場所を捜索し、6日の明け方、遂にカプセルを発見(図2)、続いて、パラシュート、カプセル前後の熱保護カバー(ヒートシールド)など、あらゆるパーツを見つけて回収しました。


図1 大気圏に突入してきたカプセルの光跡
(真ん中左に南十字星が輝いている)(クリックで拡大)

図2 発見されたカプセル(クリックで拡大)


 プロジェクト・マネジャーの津田雄一さんは、回収成功の記者会見の席で「玉手箱を舞い降ろすことができました」と報告しましたね。太陽系と生命の起源を解明するための貴重なサンプルがいっぱいつまったカプセルを「玉手箱」と呼んだのです。

 回収物体は急遽ヘリコプターで現地の本部に輸送され、特にカプセルについては、内部の揮発性の高いガス成分だけを7日に採取し、簡易分析を敢行しました。え? なぜ真っ先にガスの分析をしたのかって?

 だって、カプセルが神奈川・相模原のJAXA宇宙科学研究所へ搬入された時、その蓋を開けるのは、多分プロ・マネの津田さんでしょう。カプセル(玉手箱)の中からガス(煙)がモクモクと出てきて、それを浴びた若い津田さんがヨボヨボの浦島太郎爺さんになったら困ります。だから早めにオーストラリアでガスを抜いて…………。

 というのは、ちょっと早いエイプリル・フール。

 初号機「はやぶさ」が行ったイトカワは文字どおり岩石質ばかりの天体でしたが、「はやぶさ2」が訪れた小惑星リュウグウは、水や有機物を含んでいる岩石がかなりあるそうです。もし有機物があるとガスを発生する可能性があり、それが検知できると、カプセル内にはその種の砂が確かに存在していることになりますね。そこで、回収できたカプセルの初期分析を、12月7日に、現地で早速に敢行したわけです(図3)


図3 現地での簡易分析のシーン(クリックで拡大)


 この分析の結果、本当にガスが検出されたのです。カプセルの密閉度から推定すると、カプセル内部にガスを発生させるのは、リュウグウから採取したサンプル以外には考えられません。ということは、どうやら確実にサンプル採取は成功したらしい。開封がとても楽しみになってきました。

 この簡易分析の後、現地でコンテナに積み込まれたカプセルは、チャーター機で懐かしい故郷・日本へ。オーストラリアに着陸した物体を日本に運ぶわけですから、これは「オーストラリアからの輸出」、日本から見ると「輸入」なんです。「はやぶさ」初号機の時もそうでしたが、オーストラリア政府のご配慮により、税関の面倒な手続きなどすべて省略して、着陸したウーメラ砂漠から直接日本の羽田空港まで飛行機で輸送されました。「カプセル」の乗せられた飛行機の名前が、偶然にも「ファルコン」──「隼(はやぶさ)」でした。何だか幸先がいいですね。


第2話【カプセル開封】

 羽田経由で運ばれたJAXA宇宙科学研究所のある神奈川県相模原のキャンパスで、大勢の市民に迎えられた(図4)後に、宇宙科学研究所のキュレーション・センターにおいて、12月8日に、カプセル内のサンプルコンテナの開封作業が行われました。地球の環境で穢れていないサンプルを採取してきたのに、ここで地球の汚れと混じってしまっては、今後の分析が意味のないものになりますから、開封作業は、相模原の専用施設内で、地球の大気にさらされないよう真空環境下で、慎重に進められました。

 まず12月14日、サンプルを格納している「サンプルキャッチャー」の入っているコンテナーを内視鏡で観察し、コンテナーの底部に黒い砂粒状の粒子が多数あるのを確認しました(図5)。打ち上げ後の経過から言って、この砂粒は小惑星リュウグウ由来と見て間違いないでしょう。どうやら、これから本格的に開封するキャッチャーの中に、大きいサンプルがいっぱい入っていそうだ──チーム・メンバーの胸は一様にワクワクと盛り上がってきました。そして、ついに歴史的な開封の時を迎えました。


図4 カプセルの宇宙科学研究所到着を迎える人びと(クリックで拡大)

図5 カプセル入り口で見つかった黒い砂(クリックで拡大)


 10年前の初号機の時は、初めのうちは目に見えるものが何もなかったので、みんな大変ショックを受けたものです。12月15日の朝。「はやぶさ2」の「玉手箱」(サンプルキャッチャー)の蓋がゆっくりと開かれました。キャッチャーは全部で3室あります(図6)。今回の2度のタッチダウンで使ったのは、A室とC室。この日まず開けたのはA室で、昨年2月22日(1回目タッチダウン)で採取したサンプルが入っている部屋。

 最初に目視で確認したのは、JAXAの澤田弘崇さんです。後の記者会見の席で彼は、

──「数ミリサイズの試料がごろごろ、どっさり入っていて言葉を失うくらいでした。期待をはるかに上回る量を採取できました」──と声を弾ませました。そこには、直径数ミリ程度の黒い石が多数、太陽系の歴史を語る輝きをまぶしく放っていました(図7)。竜宮城から帰った玉手箱から出てきたのは、煙ではなく、間違いなく宝物だったのです。「サンプルキャッチャー」の重量を、打ち上げ前と比較したところ、5.4グラム増えていました。当初の目標は0.1グラムだったので、50倍以上の試料採取に成功したことになります。

 これでひとまず、新型コロナの蔓延の中で続けられた「はやぶさ2」チームの奮闘は、大きな果実をもたらしました。すでに岩石のかけらが取り出され、光学顕微鏡での観察や重量測定が開始されました。


図6 サンプルキャッチャーの構造(クリックで拡大)

図7 A室のサンプル(クリックで拡大)


第3話【2つめの部屋を開封】

 人工クレーターによって湧き出たリュウグウの地下物質のサンプルを納めたC室からサンプルを取り出すのは、来年にする予定でしたが、作業が順調に進んだため、予定を早めて12月21日にC室と(採取には使わなかった)B室を開封しました。先日開封したA室で見つけたのは直径数ミリ程度のものでしたが、C室には5ミリから1センチ近い小石がごろごろ見つかりました(図8)。いやあ、驚きましたね。これらの砂や小石は予想よりも硬く、計量などのために拾い上げても崩れることはありませんでした。C室にはアルミ箔とみられる人工物も入っていました(図8の左上部分)が、これは採取装置の一部とみられていて、分析には影響しないそうです。

 そして使わなかったはずのB室からも、2度の着陸の間に実施した接近観測などの際に入ったとみられる黒い砂粒も見えます(図9)

 分析を担当するJAXAの臼井寛裕さんは、C室から見つかったサンプルについて、「着陸地点の岩盤が固かったので、弾丸で砕いてできた粒が大きくなりやすかった可能性がある」と説明しています。地下物質も相当数含まれていると推定されますが、より詳細な分析が必要ですね。


図8 C室のサンプル(クリックで拡大)

図9 B室の様子(上半分。下の半分はA室)(クリックで拡大)


 さて、こうして「はやぶさ2」の小惑星リュウグウとの闘いの第一幕が、大きな成果を残して、2020年を終えました。その持ち帰ったサンプルとの新たな闘いが第二幕として開始されます。これから「はやぶさ2」チームは、どのようなサンプルを採取できているのか、形状や重さなどを記録するカタログ作りを進め、2021年6月以降に成分などの本格的な分析を始めます。


 なお、「はやぶさ2」の本体は、カプセル分離後、エンジンを噴射して、地球重力圏を離脱する軌道に乗りました(図10)。2031年に別の小惑星1998KY26に到着することを目指す「拡張ミッション」に入りました。12月28 日現在、「はやぶさ2」はすでに、地球から882万キロメートルまで飛び去っています。このミッションについても、いずれ詳しくご紹介します。


図10 地球を後にして遥かな旅に出た「はやぶさ2」(クリックで拡大)


 みなさん、それではよいお年を!



[図クレジット]図1~10 JAXA